橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

東駒形「とん平」

classingkenji2009-03-11

「稲垣」のそばに、赤ちょうちんの並ぶ何とも風情のある店がある。看板には「もつ焼 とん平」の文字。暖簾をくぐってみると、正面にL字型のカウンター。左側は座敷で、四人テーブルが八つほど。いい感じに古びた落ち着いた店内である。
二本三〇〇円の串焼きを注文すると、ご主人は備長炭の焼き場に串を載せ、全身を使って団扇で扇ぐ。炭は真っ赤になって高熱を発するが、脂や肉汁が落ちて発した煙は一瞬のうちに飛ばされて、串につくことがない。どうしてそんなに扇ぐんですかと尋ねると、こうしないと煙がついて黒くなるから、とのこと。たしかに、これ見よがしに炭火焼きを強調するなら、煙でいぶした方がいいのだが、これでは肉の持ち味を損なう。出来上がった串焼きは、美しくすっきりした味だった。注文をとるのは、息子さん。ビールは五八〇円、ホッピーは四三〇円。串焼き以外にも、鰻、肉料理、魚料理とメニューは多い。「稲垣」はけっこう有名だが、そのすぐそばに知られざる名店があった。浅草へ行くなら、たまには橋を渡った駒形で飲むのも悪くない。(2009.3.5)

墨田区東駒形3−22−2
17:00〜23:00 日祝休
http://www.soriq.jp/omise/tonpei/index.html