橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

浅草「神谷バー」

classingkenji2009-03-09

赤羽を出て、浅草へ。実は、今日の最大の目的は、この店へ行くことだった。気分転換というなら、まだ日が明るいうちのこの店ほど適した場所はない。日本の居酒屋を愛したサイデンステッカーは、こんなことを書いている。

日本のいわゆる知識階級の生活が、正気の沙汰ではなく、馬鹿馬鹿しくてしかたがなくなってきた時、時評のために、山と積まれた文芸雑誌のどれもこれもが、つまらなくて読むに耐えられなくなってきた時、私は銭湯に行く。時間さえ許せば、浅草へ出かけていく。文字通り命の洗濯をしに行くのである。(高見順編『浅草』)

この気持ちは、よく分かる。私の場合は「山と積まれた論文や学術書のどれもこれもが、つまらなくて読むに耐えられなくなってきた時」だ。浅草の街歩きもいいのだが、私の場合はたいがい、煮込み通りか神谷バーである。今日はゆったりしたかったので、二階のレストランへ行く。
ここで決まって飲むのは、このアサヒスタウトと、名物のデンキブランである。アサヒスタウトは、市販されているのをみることも滅多になく、最近はこの店以外で飲んだことがない。ラベルの説明書きには、イギリスタイプのビールでアルコール度数八%とあるから、ビールの種類で言えばインペリアルスタウトということになりそうだが、光にかざしてみると濁りがなく美しい赤褐色に輝く。香りからみても、どうやらラガービールのようだ。
まだ明るい時間なので、客の多くは地元の高齢者で、三−五人くらいのグループで楽しそうにやっている。あとは、外回りの仕事が早く終わったという風なサラリーマン。五時を過ぎると、すぐ満員になる。騒がしくなる前に、次の店へ行くことにしよう。(2009.3.5)

台東区浅草1丁目1番1号 
11:30-22:00 火休
http://www.kamiya-bar.com/