橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

岡山「佐久良家」

classingkenji2008-12-11

日本福祉大学の仕事で、岡山へ。先方の教員と事務方、お二人と待ち合わせて街に出る。ある人にいわせると、岡山にはいい居酒屋が少ない。瀬戸内の海の幸を美味しく食べさせる店はあるのだが、居酒屋好きが考えるところの「いい居酒屋」は少ないという意味である。それなら、いい魚を食べてやろうと出かけたのが、四七都道府県を網羅したという居酒屋界の快著、太田和彦の『居酒屋味酒覧』にも載っている、この店である。駅前から続く大通りを「桃太郎大通り」というが、ここをまっすぐ行って西川を過ぎたところから、一本左に入った場所にある。
刺身盛り合わせは、鰆、鯛、鮹、鰤など七種類が入って、どれも質が高い。うれしいのは地元の日本酒を取りそろえていることで、大典白菊、御前酒、喜平、桜室町など六銘柄が、それぞれ本醸造から大吟醸まで五種類ずつ。この日の岡山は気温が〇度と寒かったこともあり、純米酒を選んで燗でいただいたが、どれも品のいい甘さの芳醇な酒。岡山は、酒どころでもあるのだ。同行した二人は、主に焼酎を飲んでいたが、これも地元のきび焼酎など珍しいものがある。料理はさらに、穴子の白焼きと天ぷら、自家製チーズ、酢の物と南蛮漬けを盛り合わせたままかり、鮹の天ぷらなど。いい出汁を使った日本料理に、料理人の腕がしのばれる。主は奥の調理場で、客の応対はアルバイトの若い女性が二人。居酒屋と考えた場合は、主や女将の人柄を知ることのできないのが少々物足りないのだが、それは我慢するとする。岡山出張の時には、また寄りたいものだ。(2008.12.6)

太田和彦の居酒屋味酒覧―精選173

太田和彦の居酒屋味酒覧―精選173