橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

英国の酒税体系

classingkenji2008-06-13

英国内ならウイスキーが安く買えるはず、と思っていたが、ぜんぜん安くない。写真は、waitroseという高級スーパーチェーンの酒売り場。わかりにくいと思うが、ラフロイグ10年は通常価格26ポンド(約5400円)が、安売りで20ポンド(約4200円)。安売り価格が日本のディスカウントストアと同じくらいだろう。グレンフィディック12年も同じ値段で、これは日本の方が明らかに安い。waitroseはプライベートブランドウイスキーも出しており、いちばん左下はそのハイランドのシングルモルト12年だが、15.99ポンド(約3300円)。日本ではグレンリベットの12年が3000円以下で買えるから、やはり高い。もっと高いのはジンで、ゴードンやビーフィーターなど、ごく普通のものが12ポンド(約2500円)以上もする。日本の約2倍の値段である。
なぜ、こんなに高いのか。それは、蒸留酒に対する酒税が高いから。純アルコール分1リットルあたりの酒税が21.35ポンド(約4500円)だから、アルコール分40%の酒750ミリリットル瓶の場合で1350円も課税される計算になる。元値の安いジンなら、税金が6割程度にもなってしまうわけだ。日本では300円だから、1000円も高い。ちなみにワインの酒税は、750ミリリットル瓶に対して約300円、ビールは633ミリリットルの日本的大瓶に換算して約100円。日本ではそれぞれ、60円と139円である。それが酒の価格にもそのまま反映されている。ワインは日本よりやや高い程度で、たとえばチリのコンチャ・イ・トロ・カッシェロ・デル・ディアブロは7ポンド(約1470円)。ビールは、ギネスのロング缶が4つで4.65ポンド(約970円)、より値段の安い普通のエールだと、同じく4缶で3ポンド(約630円)くらいからある。英国は日本の次にビールの酒税の高い国だが、それでも40円の違いは大きい。
英国の酒文化に関心のある人なら、ウィリアム・ホガースの「ジン通り」「ビール街」という銅版画をご存じかもしれない。貧民街ではみんながジンを飲んで荒れた生活をしており、酒浸りの母親が赤ん坊を階段の下に放り出したりしている。中間階級の街ではみんながビールを飲んで健康的な生活をしている、というもの。現代の英国で、ジンを飲むのがどういう階級なのかはわからない。しかし現代のこの税体系では、貧乏人はビールを飲むしかなさそうだ。