橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

サウスハンプトン RICHMOND INN

classingkenji2008-06-12

家からいちばん近いパブがここ、リッチモンド・インである。近いというだけではなく、いろんな意味で英国らしいパブで、これから何度も通うことになりそうだ。まず、入り口が二つあり、左側のドアにはBAR、右側のドアにはLOUNGEと記されている。これが話としては聞いていた、それぞれ労働者階級向け、中産階級向けのスペースということになる。BARのドアは閉まっているのに、LOUNGEのドアは開けっ放し。これは、一見客はLOUNGEに入れということだろう。中にはハンドポンプのついたカウンターがあるが、アーチ型のこのカウンターは、二つのコーナーにまたがっていて、店員は両方を行き来する。トイレは共通で、カウンター裏手のLOUNGE側にはLADY、BAR側にはGENTLEMAN。トイレへ行ったついでにBARコーナーをのぞいてみると、テーブルはあるものの数が少なく、客の多くは立って飲んでいた。客層も違っているようで、たしかにBAR側には赤ら顔の労働者風が談笑し、LOUNGE側では物静かな初老の客が新聞を読んでいる。ただし、どちらに入るかは好みの問題で、結果的に客層が分かれるということだと思われる。ものの本によると、両者では値段が異なるとのこと。この店でも値段が違うのかどうかは、今度調べてみたい。
数種類あるエールは、適温常圧のカスクからハンドポンプを操作してパイントグラスに注がれる。炭酸ガスも動力もない、本物のハンドポンプだ。この日は二種類飲んだが、とくにABBOT ALEは英国ホップの上品な香りが鼻腔を満たし、スムーズな味わいで素晴らしかった。壁には、CASK MARQUE TRUSTSという団体の認定証が飾られている。この団体は、加入したパブを評価者が抜き打ちで訪問し、カスクエールのtemperature, appearance, aroma, tasteを評価して、合否を決めるという。メンバーは全英で4813とのこと。サウスハンプトンでは30軒ほどのパブが認定されている。リアルエールの復興に大きく貢献したCAMRA(CAMPAIGN FOR REAL ALE)ともつながりがあるらしい。草の根市民運動のCAMRAに呼応した業界団体というようなことだろうか。日本だと、いくらエールとはいっても冷やして飲みたくなるものだが、パブで何度か飲んでいるうちに、やはりエールは13-14度くらい、ようするに赤ワインの適温で飲むのがいちばんだという気になってくる。
なお英国のパブは禁煙化されていて、喫煙者はごらんの通り、店先に出て吸っている。この店の場合は、裏手にテラス席があって、ここでは喫煙しながら飲むこともできるようだ。

CASK MARQUE TRUSTS
http://www.cask-marque.co.uk/index.php
RICHMOND INN 
108 Portswood Road
Southampton
Hampshire