橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

自由が丘「金田」

classingkenji2008-04-30

今日は、出版社の編集者と打ち合わせと称して飲むことに。スタートはここ、自由が丘の名店「金田」である。この店、いつもカウンターの上に、毎日変わるメニューが二つ折りにしておかれている。このメニューは、じっくり鑑賞するに値する。季節の魚や野菜の料理が、何十種類も並び、いつも目移りがする。春は山菜や竹の子、夏には鮎や鱧、秋には松茸、冬には寒ブリ、鱈や牡蠣の鍋など。四季折々に楽しめる。本日の季節料理は、カツオ、竹の子、たらの芽、フキなど。カウンター席の客のほとんどは一人客か二人客で、みんな静かに酒を飲むか、穏やかに談笑している。隠居風あるいはインテリ風の中高年男性と、裕福そうなご夫婦が多い。今日は特にご夫婦が多いようで、会社帰りに待ち合わせたか、あるいはいったん家に帰ってネクタイを外し、いっしょに出てきたような雰囲気。数えてみれば、客の約半数はこうした中高年カップルである。見るからに「中流の上」といった感じの人々が多く、山の手高級住宅地を控えたこの街の特徴をよく表している。かといって排他的というわけではなく、中に入れば主人がにこやかに迎え入れてくれるから、安心していい。しかも、店の作りそのものは下町の大衆酒場によくあるようなコの字型カウンターだから、一人でくつろいで飲むことができる。値段は安いとはいえないが、都心の普通の居酒屋程度だからリーズナブルだ。現在の主人は二代目で、厨房では京都で修行してきたという三代目が庖丁を振るう。いつも混んでいて入りにくいというイメージがあるが、六時頃までならたいがい入れるだろう。(2008.4.14)

目黒区自由が丘1-11-4
17:00-21:00 日祝休