橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

板橋区役所前「亀屋」

classingkenji2008-04-09

都営三田線の駅のすぐそばに、旧中山道と王子新道が直交する交差点がある。このあたりは、旧中山道沿いの中宿商店街の中心部にあたるが、そのそばに、くすんだ光を放つ大衆酒場がある。紺地に白く「大衆酒場」の文字。「大衆酒場 亀屋」といえば、八広に同名の名店があるが、関係があるのかないのか。上の看板には「ホッピー酒場」ともある。ずっと前に一度来たことがあるが、久しぶりに入ってみることにする。中には、一五人くらい座れるコの字型カウンター。小上がりもあるにはあるのだが、物置になっている。切り盛りするのは、八〇歳近くかと思われる女性が一人。客は常連の一人客ばかりのようで、カウンターの向こうとこちらで親しく話を交わしている。テレビでは、巨人戦をやっている。皆さん、巨人びいきらしい。この日は珍しく、三連発で巨人が中日を逆転した日だったが、皆さん半信半疑で、どうせだめだよという雰囲気(結局はこのまま勝ったのだが)。ビール大瓶五〇〇円、レモンサワー三二〇円、ホッピー三四〇円で、中一二〇円。料理は簡単なものばかりで、油揚げ焼きに貝割れを載せたもの三〇〇円など。常連客は、異端者の私を気にするでもなく無視するでもなく、ときどき言葉をかけてくる。ある客が「阪神ファンなんて、ろくな人間いないよ」というと、もう一人の客が「お客さん、阪神ファンかもしれないじゃない、ねえ」と、私に話しかける。「いやいや、そうじゃないですよ」と答えるが、心遣いはありがたい。ディープな地元居酒屋の雰囲気が味わいたい方はどうぞ。(2008.4.3)

板橋区板橋3-10-3
営業時間・定休日不明