橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

ブラッスリー・パラディ

classingkenji2007-12-19

経堂駅の南側、農大通りと違って新宿方向にやや戻る感じに伸びる通りを本町通りという。いちおう商店街なのだが、店はまばらで交通量が少ない。その一角に、「ブラッスリー・パラディ」という店があった。いつも赤白三種類ほどのグラスワインがあり、さらに一〇〇種類以上のワインがボトルで注文できる。店も狭いが、さらに輪をかけて厨房が狭く、そこで腕利きのシェフが素晴らしくワインに合う料理を作ってくれる。いい店なのだが、自宅からみて駅の反対側にあたり、歩くと二〇分近くかかるのが難点で、これまであまり足を運ぶことができなかった。ところがこの店が、近所のすずらん通りに移転してきてくれたのである。さっそく行ってみた。店は前の二倍以上の広さがある。厨房も広くなり、シェフも伸び伸びと料理している。まだ開店して間もないので、店の人もあわただしく動いている。料理は、アミューズ、オードブル、魚料理、肉料理のコースが三八〇〇円、アラカルトが六〇〇−一五〇〇円程度。今日は、アラカルトで注文することにした。白身魚カルパッチョは、歯ごたえのあるスズキにマヨネーズ風のソースをかけ、ネギと大葉のみじん切りを載せた、やや和風テイストのもの。ウサギのテリーヌは、さいの目に切った肉をゼリー寄せにした一品。ツブ貝のオーブン焼きはニンニクと香草を使ったブルゴーニュ風のもので、素晴らしいおいしさだった。メインは、子羊のローストと鴨のコンフィ。これにグラスワインを五杯、マルサネを一本飲んで、二人で一八〇〇〇円ほど。たまの贅沢だが、コストパフォーマンスは高い。こんな店が近くにあるのは、幸せなことである。