「秋刀魚の味」(小津安二郎監督・1962年)
小津安二郎最後の作品。初めて見たとき、「お茶漬けの味」みたいに秋刀魚を食べるシーンが出てくるものとばかり思っていたが、そうではない。ほろ苦い人生ドラマ、というような意味だろう。笠智衆、中村伸郎、北龍二の三人は中学の同級生なのだが、同窓会の打ち合わせだなどと称して、よく酒を飲む。行きつけは、銀座の裏通りあたりと思われる「若松」という小料理屋で、時には昼休みに集まってビールを飲んだりしている。ある時、今は落ちぶれている中学時代の恩師・東野英治郎を連れてくるのだが、東野は酔いつぶれて眠ってしまう。このあたりは絶妙の名演技なのだが、中村伸郎の回想によると、実は東野は酒が弱くて、飲みながら撮影しているうちにほんとに酔っぱらってしまったのだという。もうひとつ出て来るのは、死んだ妻に似たママがいるということで笠智衆が通うようになるトリスバーの「かおる」。ママは岸田今日子で、実にいい雰囲気を醸し出している。最後は娘の結婚式のあと、酔って家に帰ってきた笠智衆が、台所でヤカンからコップに水を入れて飲むところで終わるが、台所の上の棚にビールの段ボール箱らしいものがあって、サッポロの赤い星印がみえる。小津映画の最後の最後のシーンに登場するということを、サッポロビールの関係者は知っているだろうか。小津の数少ないカラー映画のひとつだが、町の風景や室内の様子での色遣いが素晴らしい。ほんわかした感じの音楽も、気持ちがいい。
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