橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

西荻窪「戎」

classingkenji2007-11-09

「晩小屋」の次は、「戎」へ。有名な店だが、私は今回が初めて。駅の南口を出て右方向へ少し歩いた道の両側に、「戎」が四軒ある。私が入ったのは、道の向かって左側の一軒。屋台風の店内は狭く、平行に向かい合った木のカウンターが二本。濃く変色した壁、壁に貼られた何十年前のものか分からない焦げ茶色の張り紙。カウンターに座って、外の通りを行き交う人の姿を見ていると、なんだかヤミ市時代にタイムスリップしたような錯覚に陥る。実際、このあたりは郊外としてはかなり規模の大きいヤミ市があった場所で、当時の『火災保険特殊地図』をみると、この戎のあたりには「のみや」としるされた小さな店が密集している。ただし、ヤミ市と決定的に違うはメニューが豊富なことで、メインの串や焼きのほか、刺身、天ぷら、サラダ、ごま和えなどの野菜料理と、たいがいのものはある。今日は、もう一軒どうしても行きたい店があったので早々に出たが、今度はゆっくり飲みたいものだ。ただし、この店には張り紙があり「お酒は5杯まで、焼酎・酎ハイは3杯まで」とのこと。「寶焼酎 戎」と大書された看板は、いったいいつ作られたものだろう。なかなか行かない場所だが、また足を運びたいものだ。(2007.11.3)