橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

阿佐ヶ谷「川名」

classingkenji2007-11-12


以前からぜひ行ってみたかった店である。なにしろ、居酒屋ブログ界のエース・「居酒屋礼賛」の浜田さんがいちばん足繁く通う店である。いい店に違いない。阿佐ヶ谷駅の北口を出て、歩くこと約六分。目指す店はすぐに見つかった。ただし、最初は満員で入れず。駅前の居酒屋街を散歩し、万一入れなかった時のために事前の店を物色してからもう一度行ってみると、何とかカウンターが一席だけ空いていた。店のご主人は、「二度も来ていただいて、ありがとうございます」と、頭を下げながら付け出しを持ってきてくださった。繁盛店でありながら、ご主人は腰が低く、謙虚である。まずは、ホッピーをいただく。冷えたジョッキに冷えた焼酎、そして氷が数個だけという「準・三冷」スタイル。私のいちばん好きなこのスタイルが、デフォルトで出てくるのは珍しく、うれしくなってしまった。料理は、「ニュートンセット」というもつ焼き六本セット、そしてマグロの中落ちをいただく。もつ焼きは焼き色が良く、かなり美味しい部類にはいる。中落ちはただの中落ちではなく、おそらくは頭のトロに近い部分で、大変美味しい。若い人から高齢の夫婦まで、千客万来の店といった感じ。隣のご夫婦の男性の方が帰り際、私がホッピーを飲んでいるのを見て、ホッピーって何ですか、とおっしゃる。かくかくしかじかですよとお教えし、空いていたビールグラスにちょっとだけ注いで差し上げると、ほほう、こんなものですか、次に来た時は注文してみますとおっしゃって帰られた。これでホッピーファンが一人増えたかもしれないぞ(笑)。なかなか行けない場所なのは残念だが、まぎれもなく名店。また行ってみたいものだ。(2007.11.3)