橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「千住の永見」

classingkenji2007-11-02

今日は、出版の打ち合わせで北千住へ。編集者二人と「大はし」の前で待ち合わせたが、案の定満員で入れない。そこで駅の方向へ引き返し、「永見」へ。前回は去年の七月だから、ずいぶん久しぶりだ。今日は一階が満員で、二階に通された。二階へ行くのは初めて。広いスペースに木のテーブルが並ぶ。一階に比べると、スーツにネクタイ姿の人が多い。この店は、午後三時半からと早く空くので、地元のご隠居さんなどがまず一階を占領し、その後でサラリーマンたちがやってくるのだろう。まずは名物の千住揚げ、普通の(四七〇円)とニンニク入り(五二〇円)を一つずつもらう。その後、串焼き(二本二五〇円)、酢の物盛り合わせ(四七〇円)、煮込み(四七〇円)など。飲み物は、最初は中生ビール(サッポロ、五二〇円)、その後はハイボール(三五〇円)。
この店は、居心地がいい。「大はし」のようにぎゅうぎゅう詰めで、しかも空席を待つ視線のなかで肩身の狭い思いをする心配がない。料理は何でも揃っている。定番あり、名物あり。飲み物も同じだ。この日の毎日新聞夕刊に、先日の江古田「お志ど里」の記事が載った。見出しは「階級を超えた大衆酒場」。「永見」も、まさにそれだ。正確に言えば、特権階級以外のすべての階級が集まる。これを、統一戦線という(笑)。いちばんいいのは、こういう店である。(2007.10.30)