橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

江古田「お志ど里」

classingkenji2007-10-26

新著『新しい階級社会 新しい階級闘争』について、毎日新聞の記者が取材したいという。そこで光文社の編集者を交え、江古田駅前で待ち合わせてから居酒屋へ。行き先は、江古田を代表する居酒屋「お志ど里」である。この店、もっと早くに紹介してもよかった店である。江古田駅の南口を右側に出て、徒歩三〇秒ほど。武蔵大学へ向かう角のところにあるのだが、角の頂点あたりは別の店になっているので、敷地はL字型。中はかなり広く、二階とあわせれば二〇〇人は入るだろう。客層は、日大芸術学部武蔵大学の学生、教員、サラリーマン、そして地元民と幅広い。昼から営業していて、明るいうちは定食がメインだが、酒も飲める。地元の人々に愛される本当の意味での大衆酒場だ。学生たちも、江古田にいる四年間で、ずいぶんお世話になるはずだ。学生時代が懐かしくて仕事のあとに集まったという、サラリーマンの集団に出くわすこともあるし、私の教え子たちも同窓会に使っているようだ。
毎日から来たのは、東京版夕刊の知る人ぞ知る名コラム「今夜も赤ちょうちん」を担当する鈴木琢磨氏。昨年秋の「居酒屋から見た格差社会」で会って以来、ほぼ一年ぶりである。鈴木氏のたまうには、この本のあとがきに担当編集者について「私と同様に酒好きで、しかも居酒屋好きである氏と、江古田、池袋、神田、新宿、有楽町、銀座、北千住などと飲み歩きながら大いに語ったことが、本書のかなりの部分に反映されている」と書かれているのを見て、取材を決めたという。そこで、ほぼ一年前、研究室での最初の打ち合わせのあとに飲んだこの店にお連れしたわけである。本の完成までに飲み歩いた居酒屋の数々についてお話しをし、鈴木氏もいろいろ居酒屋について話しながら、時折メモをとる。
この店、メニューは多いがメインは魚介類で、常時刺身を十数種類置き、いずれも五〇〇円前後と安く、そこそこ美味しい。ビールはキリンで、日本酒も数種類ある。越乃寒梅が「白ラベル」(五六〇円)「純米無垢」(六五〇円)「特選吟醸」(六九〇円)と揃うが、いちばんのおすすめは「久保田・百寿」の四合瓶(二二八〇円)である。鈴木記者、急ピッチで日本酒をあけながら、店内の観察に店員への聞き取りと取材にも抜かりがない。たぶん、来週の火曜日には記事になるだろう。ご笑覧を。

新しい階級社会  新しい階級闘争    [格差]ですまされない現実

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