橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「タカダワタル的」(タナダユキ監督・2003年)

classingkenji2007-09-19

私が高田渡を知ったのは、比較的最近のことである。演奏そのものは若い頃から耳に入っていたのかもしれないが、それが名前と結びついたのは数年前だろうか。惜しいことをした。彼はほとんど毎日のように、吉祥寺の「いせや」で飲んでいたという。もう取り壊されたあの建物で、彼が酒を飲む姿を目に焼き付けておきたかった。この映画は、彼のステージでの演奏とともに、吉祥寺界隈で散歩する姿や、開店前の「いせや」本店、あるいは日差しのまぶしい井の頭公園店の窓際で飲む姿(写真)を捉えたもの。微笑ましい場面も多い。演奏中の高田のところへ、観客が飲めとばかりに酒をもってくると、高田が「お通しは」と応じる。野外コンサートで演奏の合間に酒を飲んでいると、観客が「飲み過ぎるなよ!」と野次を飛ばし、会場は笑いで包まれる。いい曲が多い。演奏では、ギターが力強く、そしてなにより声がいい。死の一年ほど前に行われたインタビューの記録をあわせて読めば、感慨もひとしおである。
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