橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

銀座七丁目「ライオン」

classingkenji2007-09-03

銀座へ来たからには、ぜひ立ち寄りたいのが、この「ライオン」である。何度も来ているから、この店については昨年六月一八日の記録あたりを見ていただくことにして、説明は省略したい。今日も満員。私は運良くすぐに座れたが、入り口で待たされている人は多い。客は、クールビズのサラリーマンを中心にした男女混成のグループと、おしゃれしたカップル、カジュアルな男性グループなど。クールビズになってから、夏の酒場は客層がつかみにくくなった。
前回、「銀座ライオン物語」というのを紹介したが、今回は「親から子へと受け継がれる伝統」というお話が追加されていた。

成人式の日のことです。私が入り口に立っていると1人の男性が話しかけてきました。今から30年以上前、その男性が成人式を迎えた日に、父親に連れられてここにビールを飲みに来たそうです。今日は息子が成人を迎えたので、同じように息子をつれて、ここへビールを飲みに来たそうです。壁画の前で30年以上前と同じく、記念撮影をしてお帰りになりました。来年は娘さんが成人式を迎えられるそうです。

今どき、成人式の日まで酒を飲まない若者も、また飲ませない親もいないだろうから、やや感慨は薄くなることは否めない。しかし、この父親の気持ちは分かる。私にとっても初めてビールの醍醐味を知った店であり、またビアホールというものを知った店である。もし子どもがいたら、私も同じようにしただろう。もっとも多少時期がずれて、大学に入学したときなどになるかもしれないが。
前回も書いたのだが、残念なことにビールの泡の出来がよくない(写真参照)。いちばん入り口側の方の席だったので、もってくる間に泡がつぶれてしまったのだろうけれど、その分も計算して注文に応じるべきだろう。こんなものを客に出すのは、この伝統あるビアホールに限っては、あってはならないことである。