橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

恵比寿「縄のれん」

classingkenji2007-08-03

二軒目は恵比寿に移動して、ここ「縄のれん」。ブログではよく取り上げられる有名店だが、私は初めて。年月を経てぼろぼろになった縄のれんをくぐって店内に入ると、右側にカウンター、左側にはソーダの箱に板を載せたテーブルが並ぶ。完全な立ち飲みスタイルである。
始めて入った焼きとん屋で私が最初に注文するのは、カシラとシロと決まっている。好物だからというのはもちろんだが、この二つには店の特徴が出やすい。カシラは肉の部分のみか、それともアブラが混じっているか。ジューシーに焼けているかどうかなど。シロはタレの味を見るのに最適。加えて、ふんわり軟らかいタイプか、それともシャキシャキ感のあるタイプか、表面を焼き固めたパリパリ感があるかどうかなど。この店は、いずれもおいしかったが、とくにアブラの比率の高いカシラが絶品。後で頼んだギアラも素晴らしかった。この店は基本的には塩・タレはお任せで、とくに希望がある場合のみ指定するのが習わしのようだ。ギアラをタレで注文したら「塩の方がいいんじゃないの」と言われて、これに従った。こういう名店では、店のやり方に従うのが原則というものだ。
飲み物は、下町風のハイボール。三七〇円というのは下町価格から外れるが、高級住宅地を後背地にもつ山手線の駅近くでこれが飲めるというのは貴重だ。通いたい店なのだが、なにぶん私の家からは不便なのが残念。(2007.8.1)