橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「ニッポン無責任時代」(古沢憲吾監督・1962年)

classingkenji2007-05-23

高度経済成長期の初め頃、数多く作られたサラリーマン喜劇映画の代表作のひとつ。先日亡くなった植木等の調子の良さが何ともいえない作品だが、全体に占める酒場のシーンの割合がかなり高い。出てくるのは、銀座のバーとビアホール、新橋の料亭だが、写真にあるのは銀座のビアホール。植木等と社長秘書の重山規子が乾杯するシーンである。画面にASAHI BEER HALLと出てくるところをみると、銀座一丁目のアサヒビアホールだろうか。重山規子が「生ビール二つとピーナッツ」と注文すると、ウエイトレスが「二四〇円です」という。「ここは前金制よ」「それじゃ割り勘で行きますか」。飲むのは、タンブラーに入った生ビールで、泡は上から一割ほど。ピーナッツが四〇円とすると、一杯一〇〇円というところか。映画にはこのビアホールがもう一箇所、重山規子を含む社員たちが、労働組合の結成を祝って乾杯するシーンに出てくる。このときは、これとは違って大ジョッキを豪快に空ける。画面で見ると、やはり泡が少なめ。生ビールの泡の量というのは、時代によって違っているのかもしれない。当時のサラリーマンたちの、酒とのつきあい方を垣間見せてくれる映画である。[rakuten:guruguru2:10029681:detail]