橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

ラズウェル細木「酒のほそ道 呑ん兵衛散歩」

ラズウェル細木の「酒のほそ道」は、これまで読む機会がなかったが、もう二〇巻まで出ているというくらいだから固定読者の多い人気マンガなのだろう。今回読んだ「呑ん兵衛散歩」は、その中から都内各所へ少し遠出をして飲み歩くというストーリーを集め、取材過程を紹介する文章を付け加えた、というような企画らしい。取り上げられたのは、隅田川、新宿、銀座、北千住、上野、浅草など。両国から水上バスで川を下って月島でもんじゃを食べ、電車で北千住まで上り「天七」で串カツを食べてから、さっき乗った水上バスが荒川を遡って北千住を通りかかったところを再び捕まえて両国に戻るというコースは、面白そうだ。浅草もなかなかよく取材されているし、銀座であまり知られていない店を発掘しているのも参考になる。
わが心の師・川本三郎があとがきを書いていて、飲みに行けない日の夜はこのマンガを愛読していると記している。川本三郎が愛読するのならと、試しに最新のものを四巻ほど買って読んでみたが、少しばかり日常的に過ぎるこまごましたストーリーが多く、全部揃えようという気にはならなかった。この種のエッセンスを集めたものだけ、あと何冊か買ってみることにしよう。
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