橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

木の芽

classingkenji2007-04-12

今のマンションに引っ越してきて何ヶ月かたったとき、妻が庭に七−八センチほどの小さな山椒が生えているのを見つけた。鳥が種を運んできたのだろう。わずか数枚しか葉をつけていなかったが、端の方を少しちぎってつぶしてみると、確かに木の芽の香りがした。それからが大変だった。なにしろ、手入れが悪く、雑草の生い茂る庭である。マンションの庭だから、手入れの業者も入ってくる。誤って踏み倒したり、抜いたりしないように、石の目印を置き、棒を立てた。冬になって葉が落ちると、わずか一〇センチほどの小枝が一本、土に刺さっているようなもので、存在感のないこと甚だしい。以前からプランターで育てていた山椒の木を近くに植えて、兄弟ということにしておいた。
それから二年。木の背丈は五〇センチほどになり、ようやく木の芽が収穫できるようになった。今日は、筍の木の芽和えに。木の芽を擂ると、鮮烈な香りがあたりに漂う。味噌を加え、味醂で味を調えて筍を和えれば出来上がりである。これからは、筍ご飯に添えたり、魚を木の芽焼きにしたりと、木の成長を妨げない程度に楽しませてもらうことにする。山椒の木は、五〇〇円ほどで売られているのを、ホームセンターなどで見かけることがある。雌雄異株で、実がなるかならないかは、後にならないと分からない。東京で木の芽を買うと、驚くほど高い。プランターでも十分育てることができるので、一鉢置いておくと重宝する。(2007.4.11)