橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

江古田「ひもの屋網十」

classingkenji2007-01-13

今日は、三年ゼミの新年会。学生の割には渋い店を選んだものだ。江古田駅の南口を出てすぐの場所にあるこの店、だいぶ前に一度だけ入ったことがあるが、干物中心の店が学生街の江古田で受け入れられるかと、疑問に思っていた。しかし、ちゃんと続いているようである。店内はパーティションで区切られたグループ席が中心なので、全体を見渡せたわけではないのだが、中高年女性のグループや、四〇歳前後の男性のグループなどがいたようだ。今日の料理は二〇〇〇円の宴会コースで、最初にざる豆腐、蒸し鶏サラダ、鶏から揚げのタルタルソース、そしてメインの干物は、シマホッケ、金目鯛、姫鱈。シマホッケと金目鯛は大振りのものが五−六人に一匹、姫鱈は一人一匹ずつ。最後にソース焼きそばと焼きおにぎりが出た。干物屋を名乗るだけあり、干物は鮮度、味、焼き加減とも申し分ない。これで二〇〇〇円なら、安いと言っていい。
酒の種類も意外に豊富だ。日本酒は、久保田、八海山、一の蔵、上善如水など有名どころを中心に二〇種類ほど。焼酎は日本酒ほどの品揃えではないが、キリンの出している焼酎三種類の他、神の河、里の曙など一〇種類ほどが揃う。ビールは、キリンのクラシックラガー、一番絞り、ハートランドの三種。ちょっと珍しいのは、ウイスキーのボトルが一〇種類以上もあること。もちろん、カクテルやサワー類もひととおりあるのだが、酒のラインナップからは、ターゲットとする客の年齢層がやや高めであることがうかがえる。ちゃんと客は入っているし、この場所にこんな店を出すことを提案したというのは、なかなか優秀なマーケッターである。
二時間少々の会で、飲めない女子学生はカクテル一杯とクリームソーダなど、カクテル・サワー派はそれぞれ二−三杯ずつ。私と二人ほどの学生は、最初はビールで、あとは神の河をロックで。参加者一一人で、勘定は三五一〇〇円。というわけで、学生は三〇〇〇円、私が五一〇〇円で済んだのだから、安いものだ。キュウリ魚や鯖のいしる漬など珍しいものもあるので、今度は最初から干物目当てで来てみることにしよう。(2007.1.12)