橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

伏見「石勢」

classingkenji2006-12-05

武生から京都に移動し、一泊。翌日はまず大原へ行き、晩秋の三千院寂光院を楽しむ。寂光院へ行く途中の道は、大原の里のひなびた風景を満喫できる場所。三千院にばかり人が集まるが、この道だけでも寂光院に足を伸ばす価値はある。そのあと伏見へ移動して、「居酒屋とり橋」の常連であるLiさんと会う。伏見の住人であるLiさんの案内で、まず十石船に乗って水路から伏見の町並みを見物し、さらに月桂冠の大蔵記念館へ。結婚してからずっと伏見に住んでいるというLiさんは、町を歩けば知人だらけで、しばしば通行人とあいさつを交わす。しまいには、道でお嬢さんにまで会ってしまった。そして案内されたのが、伏見の板前割烹「石勢」。伏見ではたいへん評判の良い店で、板前の一人は、なんとLiさんの甥っ子さんとのこと。
店に入ると左側にカウンターが並び、右側には小上がりが数席。奥には宴会のできる座敷もある。メニューには刺身や焼き物とともに、手の込んだ割烹料理が並ぶ。甘鯛の料理が何種類か合った中から、今回は蕪蒸しをいただくことにする。これが出来上がるまでの間にいただいたのは、白魚の天ぷら、鳥貝のてっぱい(辛子酢味噌和え)、万願寺唐辛子のじゃこ味噌添え、海老芋の蟹あんかけなど。酒は、伏見の玉乃光、そして桃の滴をいただく。列車の時間の関係で、二時間に満たない時間しかいることができなかったが、京都料理を満喫。しかも、これだけいただいて、お勘定は一人四〇〇〇円にも満たない。伏見の名店、一度足を運んでみる価値はある。
帰りには、Liさんに伏見の地元でしか手に入らない日本酒などどっさりお土産をいただいてしまった。桃山御陵前の駅で、再会を誓って名残惜しくお別れをした。(2006.12.3訪問)