橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「アマポーラ」

classingkenji2006-12-08

今年の春、職場の若い教員たちから「今度出す本が重版になったら、印税でパーティーを開く」と約束させられていた。それが七刷にもなったわけだから、当然、約束を果たさなければならない。というわけで、私が会場を選んで行ってきたのが、池袋東武メトロポリタンプラザの八階にあるスペイン料理店「アマポーラ」である。この店は、もう一〇年以上前から通っている。最初は「アドルフォ」という名前の店だったのだが、いつ頃からかこの名前になった。
今日頼んだのは、ハモンセラーノ、そして前菜・メイン・パエリアと続くパエリアコース。まずはハモンセラーノを肴に、カヴァ(コルドン・ネグロ)で乾杯。前菜はオイルサーディンとチキンのテリーヌ、メインはトマトソースでいただくカサゴのソテー、そして最後は、ムール貝、タコ、アサリ、海老などたっぷり具の入った魚介のパエリア。白ワインは、マルケス・デ・リスカルのレセルヴァ・リムザン。このワインは初めて飲んだが、すっきりした中に豊かな樽香があり、魚料理とは絶妙のマッチング。そして食後酒代わりの赤ワインとして、ベロニア・クリアンサ。テンプラニーリョ独特の香りと樽香が織りなすハーモニー。いずれも、価格以上の味のワインだった。デザートは、カスタードプディングとチョコレートケーキ、フルーツの盛り合わせ。この店は、卵とミルク、生クリームにいいものを使っているようで、卵料理や生クリームソースの料理もいいのだが、とくにこのデザートのプディングは最高。みんな満足のディナーだった。
コース料理八人分にハモンを追加し、カヴァ二本、白二本、赤一本で、四五〇〇〇円ほど。リーズナブルな価格で本格的なスペイン料理を楽しめる店である。しかし、惜しいのは人件費節約のためか、ただのバイトのような気が利かず、知識もない店員が複数いること。そんなわけで、ときどき大声で「すみませーん」と呼ぶ羽目になる。ちょっと改善してほしいところではある。(2006.12.7訪問)