橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「つず久」

classingkenji2011-01-18

今日は雑誌の取材で、牛込柳町へ。山の手台地の東南端に近く、坂の多い場所で、かつては江戸城の守りにつく下級武士の住宅地。維新後は新中間階級の住宅地となり、夏目漱石も晩年をここで過ごした。交差点の少し裏手にあるのが、この店。
カウンター数席と小さなテーブル三つだけの小さな店だが、カウンターの上と入り口横に、店主手書きのメニューがずらりと並ぶ。魚介類が多く、しかも旬のいいものが揃っている。天然ブリは石川産で一八〇〇円、釣りきんきの煮物は四三〇〇円など、けっこうなお値段のものもあるが、お嬢さんお手製のおから三〇〇円、納豆焼き三〇〇円など、お手軽なメニューも揃っている。メニューには店主のだじゃれがときおり混じり、マテ貝は「オーイ まて」、石川産のサヨリは「さゆり」など。締めの名物はわさび飯で、ご飯に荒く卸した山わさびをたっぷりかけていただく。知る人ぞ知る名店で、すぐに満員になる。予約したほうがいい。(2011.1.7)

新宿区市谷柳町8