橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

サッポロホールディングス株主総会

classingkenji2010-04-01

昨年に引き続いて出席。今年はスティール・パートナーズが派手にプロキシ・ファイトを仕掛けたので、けっこう注目された。私のところにも、郵便物が二回、さらに電話までかかってきた。とはいえ、安定株主と国内金融機関の支持をあらかた押さえたから、結論はほぼ見えていた。注目したいのは、一般個人株主の態度、そしてサッポロのスティールの間でまともな論争が行われるかどうかである。主要なやりとりと、一般株主からでた意見は、次のとおり。
まず複数の一般株主から、スティールが推薦した新取締役候補が、いかに胡散臭い連中であるかが指摘された。過去に、株主に間違った情報を知らせて一株あたり純資産を下回る価格で株式を買い付けたり、自分の経営するJ-REITを破綻させたりと、適格性に疑問が出され、サッポロ側もこれに同調した。これに対して、スティール側から説得力のある反論はなかった。スティールに同調するような経済人にまともな人間はいないということだろう。
とはいえサッポロの業績は、たしかに惨めなくらい低迷している。ビールの売り上げは前年比九%減で、好調だった新ジャンル(「麦とホップ」)を合わせても五%減。国内市場全体では二・一%減だから、サッポロの一人負けに近い状態が、依然続いている。これではサントリーを抜き返すどころか、最下位定着が確定したようなものだ。
採決の方法をめぐって、いくつかの質問が出た。スティールからも、取締役選任についての投票をどう集計するのか、投票をこの場で集計するのかという質問が出たが、これに対して村上社長は、担当からのアドバイスを受けたあと、郵送およびインターネットによる議決権行使と委任状によってすでに結果はほぼ出ているので、この場では拍手で採決するだけで問題ないと答えた。
採決の結果は、スティールの提案に賛成したのはスティールから来た三人の他には三−四人程度。スティールの持ち株は六九一五万株、全体の一七・七%を占めているのに対して、個人株主の持ち株は合計で一五%程度といわれている。当日出席したのは九〇〇人程度で、仮に平均五〇〇〇株所有していたとしても、合計は四五〇万株程度で、スティールにははるかに及ばない。仮に会場だけの集計を行ったとすれば、スティールの圧勝である。その意味で総会はかなり形式的なものといえるが、プロキシ・ファイトの現場を見る機会はそうないから、なかなか面白かった。
サッポロが好きで何十年も前から株をもっているという、何人かの株主から発言があった。私は親子代々の長期株主で、サッポロをこよなく愛しているが、スティールさんは私たちと同じようにサッポロを愛してくれるのかという、実感のこもった質問もあった。新製品が出たら、株主に送って知らせてください、近所のスーパーでキャンペーンガール役をやりますから、などという主婦らしい女性からの発言もあった。私が社長だったら、うれし涙が出てしまうだろう。村上社長、にやにや笑いながら通り一遍の答弁をするのではなく、もっと心から感謝してはどうか。
ある報道機関にコメントが載っていたように、提案者が実績のあるまともな投資機関だったら、どうなっていたか分からない。それくらい、現経営陣は無力に過ぎる。唯一期待できたのは、ビール会社社長で営業出身の福永だったが、不祥事で退任してしまった。応援はするけれど、サッポロの行く末は明るくない。写真は、総会が終わって会場を出る株主たちである。(2010.3.30)