橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

浅草「鈴芳」

classingkenji2007-11-26

今日は、私が開いているバーチャル居酒屋「とり橋」のオフ会。午後三時半に浅草の雷門前で待ち合わせ、集まったのは、山城屋さん、ゆーこさん、大瀧さん、右近さんの四人。まずは煮込み通りへ向かい、有名店の「鈴芳」へ。最初は、生ホッピー(五五〇円)で乾杯。少しだけ氷を入れるスタイルで、泡は少なめだが、なめらかな味わい。この店には、珍しい「黒生ホッピー」(同じく五五〇円)もある。瓶入りよりマイルドで、スムーズ。肴は、やはり煮込み。ここには煮込みが二種類ある。普通のモツ煮込みと、牛すじの韓国風煮込み(六五〇円)。韓国風は、とろけるような牛すじにキムチと唐辛子が混じる。いずれも、ホッピーには抜群の相性。この店にはさらに、天羽を使ったハイボール(四五〇円)もある。値段は全体に高めだが、これはこの通り全体にいえること。観光地値段だから、ある意味仕方がない。
今回のオフ会は「ヤミ市」がテーマで、ヤミ市酒場をめぐろうというのがきっかけだった。もっとも、煮込み通りとヤミ市の関係は定かではない。このあたりは江戸時代には火除地、明治以降は六区のいちばん端なので、もともと屋台はあったのだろうけれど、その時代には煮込みは売ってなかったはず。おそらくは戦後に、雷門通りあたりのヤミ市が移転してきたものではないだろうか。ホッピーのお代わりが続き、酒と下町・ヤミ市の話題で、盛り上がる。外を、去年この通りにきた時に見たのと同じ、江戸時代そのままの担ぎ屋台が通りかかる。売り切れて帰るところらしかったが、外人を含む観光客の一団が呼び止めて話しかける。屋台のお兄さんも、観光客あしらいは慣れたもので、担いでみますかと相成り、一人一人担いではみるが、重い上にバランスがとりにくく、容易ではない。かなりの熟練が必要のようである。五時を過ぎると、外はすっかり暗くなった。気温も下がり、筋煮込みの汁は煮こごりと化している。そろそろ次のヤミ市へと腰を上げ、伝法院通りを駅へと戻るのだった。(2007.11.17)