橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「ITOSHI」

classingkenji2007-10-13

下高井戸の駅前、京王線の踏切のそばに立つ、仕舞屋風の立ち飲み屋。「糸」という漢字を2×2に四つ並べた下に「ITOSHI」と書いて「いとし」と読ませる。以前この場所には別の立ち飲み屋があったのだが、新装して新しくなったのが、もう一年ほど前だろうか。メインのメニューは焼鳥で、レバーが一〇〇円、他は一六〇円。私はこの店に来ると、たいてい「せせり」を注文する。珍しいのは「半熟ウズラ」で、半熟のウズラの卵を串で焼いて出す。控えめに焼いているので、トロリとした黄身が大変おいしい。そのほか、豚梅しそ巻き、豚キムチなどの創作串が何種類かある。焼酎をいろいろ置き、良心的な値段で出している。場所柄、日大の学生らしい若者が何人かいることが多いが、サラリーマン風や自営業者風もちらほら。今になって気がついたが、下高井戸はちっょと江古田に似ている。古い商店街と大学が共生している。下高井戸の方がやや活気があるのは、商店街の伝統の違いか、それとも江古田が池袋に近すぎるからか、あるいは学生数の違いか。店員は若者三人で、楽しみながらまじめに働いているところは「なんで・や」と同じ。近くの人、沿線の人は、寄ってみるといい。(2007.10.6)