橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「天ん洋」

classingkenji2006-11-07

原稿を持って、赤入れに近所の居酒屋へ。今日は歩いて五分ほどの「天ん洋」である。この店は、経堂に引っ越してくる前に、情報を仕入れて訪れたことがある。魚料理中心のメニューに、日本酒一〇種類ほどと、焼酎三〇種類ほどを揃える。焼酎は、熱心な二代目がいろいろ集めて冷蔵庫に保存しているので、あるいはもっと種類が多いかもしれない。日本酒は、黒龍、飛露喜、十四代、東洋美人など筋の良いものが並び、焼酎も富乃宝山、山ねこ、佐藤、兼八、伊佐美、魔王など、話題の銘柄はほぼ網羅されている。酒の品揃えでは、この近所に並ぶものがない。値段も、きわめて良心的である。
料理は、関アジ刺一〇〇〇円、アラ刺九八〇円、ハタ刺八五〇円、タテガミとフタエゴ、霜降りが盛り込まれた馬刺し三点盛り八五〇円など、珍しいものがリーズナブルな値段で食べられる。ハゼ、カキ、エビなどの天ぷら七八〇円も、二人で楽しめる量で捨てがたい。冬場は、フグ鍋やクエ鍋が美味しい。
ふだんの客層は、近所の東京農大の学生、地元の自営業者や奥様たちの集まりなど、地元関係者がほとんどで、ときどき地元の小学校や中学校の同窓会をやっているのが微笑ましい。一階は大きいテーブルに五人、座敷に十二、三人が座れる程度だが、二階は三〇人くらいまで入れるらしい。今日はいつになく空いていて、男子学生四人組と、近所の住人らしいカジュアル姿の五〇代男性三人組、それに隠居した店主夫婦がテーブル席に座っているだけだった。
この近所で、魚料理と日本酒・焼酎を楽しむならこの店がいちばんである。いや、魚食いの酒好きならば、遠くからでも訪れるだけの価値はあると思う。ちなみに、ビールはサッポロ黒ラベルを出す。