橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

東松山の「やきとり」

classingkenji2008-03-19

豚のモツなどを焼いたものを「やきとり」と呼ぶのはなぜかという問題については、以前書いたことがある。その発祥地というわけではないけれど、このタイプの「やきとり」を語るときに外せないのは、東松山の「やきとり」だろう。基本的には豚のカシラと長ネギのねぎまに、唐辛子味噌をつけたものだが、実は私、テイクアウトものや「東松山」と称する別の土地のものは食べたことがあるが、現地では食べたことがなかった。そこで今日は仕事が一段落したので、出掛けてみることにした。池袋まで出て、東武東上線に乗る。以前、この沿線に住んでいたことがあるので、とても懐かしい。急行に乗って東松山までは五三分で、着いたのは四時ごろ。改札を出てみると、駅前に大きな鳥居がある。これは、一九五九年にランドマークとして建てられたものだとか。あたりを歩くと、やきとり屋がそこかしこにあるのがすぐわかった。さすが、「やきとり」の本場である。
昼からやっている店もあったが、少々禁欲して、まずは商工会館へ。目当ては、「やきとり音頭」のCDである。商工会青年部のメンバーが作詞作曲演奏までしたというこの音頭、帰ってから聞いてみたが、「カシラだ レバサシ ナンコツ タン ハツ やきとり音頭だよ」という具合で、なかなか脱力できる。次に向かったのは、駅から歩いて二分ほどのところにあるスーパー。肉売り場をのぞいてみると……見よ、この豚カシラの群れ。壮観である。東松山の人々は、家でもカシラのやきとりを作って食べるということか。買って帰ろうかとも思ったが、先は長いのでやめておく。さあ、やきとり屋に突入だ。(2008.3.11)