橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「ミツル」

classingkenji2014-03-31

仕事場マンションの近くに、立ち飲み屋がある。前から気付いてはいたのだが、店名と真新しい垂れ幕の感じから、なんとなく若者が一人でやっている落ち着かない店のようなイメージがあって、なかなか足を運ぶ気にならなかった。通りかかった時にちらりと中を見ると、店の年輩女性が中高年客と談笑しているのが見えたので、入ってみる気になった。
垂れ幕には「立ち飲み」とあるが、実際には客が全員座れる数の椅子がある。まるでチェーン店のようにきれいに作られたメニューがあるが、ヱビス黒ラベルが大きく掲げられ、焼酎は和ら麦、からり芋、飲み方は「ごぶごぶ割」。サッポロが取引先へのサービスとして作っているメニューなのだろう。ヱビス中生が四五〇円、黒ラベル中瓶が四五〇円、ピカルディ・モヒートが四五〇円、デュワーズハイボールが三五〇円と、まあまあ安いといっていい。料理のメインは焼鳥で、せせり一八〇円、ボンジリ・ねぎまが一五〇円、ハツ・レバー・砂肝が一二〇円など。注文してみると、大きめの肉がきれいに焼き上がった本格的なもので、コスパは高い。ハイボールは、スコッチを使っているだけにピート臭がするこれも本格的なものだった。
客の一人が、宴会の貸し切り予約をしている。どうやら、学校の先生らしい。この店なら、雰囲気と座り心地は評価が分かれるとしても、味と値段の点では文句なしだろう。会計を頼んだ客が、レシートを見て焼酎が一杯抜けてると女将に告げ、計算し直してもらっている。女将は「すみません、ありがとうございます。この間もね、お客さんが飲んでった次の日にレシート持って来て、一杯抜けてるよって払っていってくださったの。涙が出るくらいうれしくて」と言って、頭を下げる。ちょっと気持が暖かくなった。
池袋駅南口の西側、びっくりガードの近くにある。(2014.3.15)

豊島区西池袋1-5-4
17:00〜23:00 無休