橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

富士見台「くろちゃん」

classingkenji2013-06-12

授業のあと、どこで飲もうかと少し考えた末、まだ行ったことのないこの店へ。富士見台の駅を降りて東南方向へ少し歩き、区界を越えて中野区に入った場所だ。
この店の店主は、野方の「秋元屋」、中野の「石松」と、二大名店で修業したという人物。秋元屋系ということで味噌だれで注文してみたところ、「石松」流に注文を受けてから肉を切り、串に刺し始める。焼き上がった串焼きは、味噌だれとはいっても「秋元屋」に比べると唐辛子もニンニクも控えめの薄味。ある客がタンモトを注文したところ、居合わせた客も便乗して「ぼくも」という。そこで「私も」と便乗。こういうところなど、むしろ「石松」に近い店といっていいだろう。次に注文した品は、時節柄詳細は省くが、エッジの立ったきれいな形ですっきりした味。沿線といえども、なかなか行けない場所だが、たまには寄ってみたい店である。
ちなみに、客と主人の間でこんな会話が。
「『古典酒場』って雑誌ね。昨日買ったんだけど、もう終わっちゃうんだってね。」
「ほう。」
「思うにね、あの女の編集長がね、体壊しちゃったんだね。もう、やれなくなっちゃったんだね。」
「そりゃ、惜しいことしましたねぇ。」
念のため書いておくが、倉嶋編集長はぴんぴんしていて、今日もがんがん飲んでいるはずである。(2013.5.23)

中野区上鷺宮4-16-19
17:00〜24:00 月休

古典酒場 VOL.12 FINAL号

古典酒場 VOL.12 FINAL号