橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

住吉「山城屋酒場」

classingkenji2013-03-01

この日は入試関係の会議のあと、少し空き時間があったので、東京都現代美術館で開催されている特別展「アートと音楽」を見に行く。評判通り、セレスト・ブルシエ=ムジュノの「バリエーション」は素晴らしい。大小さまざまな白磁のボウルが、水面をたゆたい、ときおりぶつかって澄んだ音を響かせる。テレビで見た時は、何か電子的な仕掛けで音を出しているのかと思ったが、実際に磁器がぶつかる音だけだった。
最大の駄作は、坂本龍一の「collapsed」。だだっ広く暗い空間に自動ピアノが置かれ、壁に哲学者や詩人の言葉がレーザーで投影され、ときおりピアノがランダムな音をたてる。投影された言葉を音に変換したものだという。1970年代に高橋悠治が、ホー・チ・ミンの言葉をピアノで演奏するというのをやったことがあるが、その電子的な焼き直しのようなものでまったく新しくないし、演奏効果はほとんどゼロ。空間の無駄である。
そのあとは、水路が縦横に走る深川の住宅地を歩いて、住吉のこの店へ。私は初めての訪問である。最近建て替えられたのだろう。建物も内装も新しいが、大きなカウンターを中心とした店作りはまさに下町大衆酒場。薄い色の下町ハイボールがうまい。平皿に盛られた、とろりとしたもつ煮込み。ほとんど生に近いしめ鯖。いずれも、美味しかった。何度でも通いたい下町の名店である。(2013.1.31)

江東区住吉2-7-14
17:00〜22:00 日祝・第135土休