橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

三軒茶屋「久仁」

classingkenji2011-10-03

久しぶりに、この店へ行ってみたくなった。世田谷を代表するモツ焼きの名店である。三軒茶屋の駅から茶沢通りに入ると、道はゆるやかな下り坂になる。坂を下りきったところが烏山川緑道で、これを少し過ぎて少し歩いたあたりにある。ここから右に入ったところには、不遇時代の林芙美子が住んだ二軒長屋がある。
左が長いカウンター、右が小上がりで、その間にテーブル席が並ぶ。六時前だというのに、もうほぼ満員だ。「山の手の中の下町」といったシチュエーションらしく、客層は広い。隣に座ったご年輩は、話を聞くと用賀に住む元大手企業の役員さんらしい。同じく裕福そうなご夫婦やおじさまたちがいるかと思えば、労働者風やフリーター風も多い。階級を超えた居酒屋という、私好みのトポスである。値段は、下町価格にかなり近く、世田谷としては破格の安さ。モツ焼き、もつ煮込みももちろん美味しいが、ここで忘れてならないのは浅漬けで、安くて量が多く、薄味でいくらでも食べられる。サラダは日本酒やホッピーの肴にはなりにくいが、これは肴としても申し分なく、もつ焼き屋で陥りやすい野菜不足を解消することができる。(2011.9.17)

世田谷区太子堂3-18-2
17:00-23:00 日祝休