橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

名古屋「大甚」

classingkenji2010-12-01

先々週に続いて、名古屋出張。仕事を終えて、伏見駅そばの「大甚」へ向う。週末のせいか、五時前というのにもうほとんど満員状態。一人の初老の客が入り口の戸を開け、中をのぞき込むなり諦めて引き返してくる。あ、だめかと思ったが、いちばん奥の隅が一席空いていた。後から入ってきた客は、二階席へ通されていた。
まずは、瓶ビールを注文。一杯飲んで落ち着いたところで、料理を取りに行く。この店は、大きなテーブルに料理が所狭しと並べられていて、ここから好みのものを取り、最後は店の人が皿の形をみて勘定するというシステム。まずは煮穴子、そして筍と高野豆腐の煮物をいただく。薄味で色も美しく、たいへん美味しい。ビールの後は燗酒をいただく。少々熱すぎる嫌いがあるが、飲むうちに適温になってくる。そのあとは、〆鯖とセリのおひたし。こちらも申し分ない味。
大きなテーブルが並び、客はテーブルを囲むように座る。熟成して黒褐色が支配的する落ち着いた店内は、十条の斎藤酒場に通じるものがあり、料理の味はれっきとした日本料理店に劣らない。名店といわれるのも納得だ。常連なら皿の形で値段が分かるのかも知れないが、新参者には無理。しかし、安いので心配はいらない。合計から逆算すれば、一皿平均四〇〇円というところだろう。
一つ苦言を。若い店員が、酒の注文をしばしば忘れる。ただ「酒」と注文すると、つねに適温に湯煎されている大徳利を持ってくる。小徳利を注文すると、新たに熱湯で燗をつけるようだが、店員がそのまま忘れ、催促すると口を付けられないほど熱いのが出てきた。向かいの客も同じ目に遭っていたから、たまたまではないようだ。ここでは、普通に大徳利を飲む方がよさそうだ。(2010.11.20)

名古屋市中区栄1-5-6
16:00〜21:00 日祝休