橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

静岡「橋」

classingkenji2010-09-03

静岡が日本酒の銘醸地として広く認められるようになったのは、最近のことだ。今では吟醸酒の質の高さで定評があるが、その立役者が、静岡県工業試験場で開発された静岡酵母である。この酵母を使った酒は、華やかさを誇示するというより、ふんわりした品の良い香りで、すっきりした旨みがある。県産酒をいろいろ揃えて出す店はいくつかあるが、この日は「橋」を訪れることにした。
店主の和田年邇さんがこの店を洋風バーとして始めたのは七〇年のことで、五年後に日本酒専門店へ衣替えした。地酒ブームの始まる前、静岡県産酒の質もさほど高くない時期である。県外の酒をいろいろ置こうと考え、最初に目をつけたひとつが、当時まったく知られていなかった越乃寒梅だった。蔵元に直接話をつけ、それ以来ずっと正規の小売価格で仕入れている。普通酒から大吟醸まで六種類、さらに五年熟成の焼酎まで揃え、値段は実に良心的である。
静岡県産酒は一三銘柄で、斗瓶囲いの純米大吟醸など選りすぐりを置いている。料理は季節により変わるが、山葵の花の醤油漬け、静岡ではよく食べるイルカのたれ焼き、生青海苔など地元のものを中心に、日本酒に合う肴を十数種類揃える。食べて飲んでというよりは、バー感覚の居酒屋だ。飲み歩きの締めくくりに寄るにはもってこいだろう。(2010.8.5)

静岡市葵区昭和町3-4