橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

西麻布「せいざん」

classingkenji2010-08-10

この日は、広尾の聖心女子大学で集中講義。暑いさなかに六時間の講義を終え、さてどこで飲むかと考えた。広尾は昨年、隅から隅まで歩いて探索したので、今日は別の場所へ行ってみようと、北上して西麻布へ行ってみることにした。広尾から外苑西通りの一本裏手の路を歩いていくと、丘の上にちょっと住んでみたくなる広尾ガーデンヒルズ瀟洒な姿をみせる。続いてゴージャスなオマーン大使館の前を通り過ぎ、しばらく行くと、急に庶民的なそば屋や居酒屋、中華屋、寿司屋などの続く通りに入る。そのコントラストが鮮やかだが、あとで調べてみると、思った通り江戸期の武家地と町人地の境目が、このあたりだった。
通りの中ほどで見つけたのが、この店。ビルの地下だが、店構えは悪くないし、地上の入り口に貼られたメニューをみると、このあたりとしては安めの価格設定なので、入ってみることにした。かなり昔からやっている店のようで、内装など、かつて地上の木造建物だった頃の木材を転用しているようだ。季節のメニューがいくつかあり、その中から鱧をいただくことにした。酒は、サッポロ黒ラベル(中瓶六八〇円)。次いで自慢の品らしい牛モツ煮込み(五八〇円)を注文。ハチノスを主体にいくつかの部位が入った煮込みは、和風トリッパともいいたくなるよくできた一品で、日本酒が欲しくなる。そこで、ちょっと珍しい「恵 いづみ橋 海老名耕地」。これは日本酒度二三、度数一九−二〇というパンチのある酒で、煮込みにはよく合う。
場所の割には安いし、いい店だと思う。営業時間が朝四時までというのは、業界関係者が集まるからだろうか。近くへ行くことがあれば、また来てみたい。(2010.8.2)

港区西麻布4-3-10-B1
18:00〜4:00 日休