橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

湯島「岩手屋本店」

classingkenji2010-03-11

三軒目にして、今宵のいちばん大切な目的地は、ここ。どういうわけか、これまで紹介していなかったが、湯島の名店。千代田線の湯島駅から上野広小路に向かって通りの右側をしばらく歩き、二本目の路地を右に曲がったところにある。もう一軒、路地を奥まで進んで左に曲がったところに「七福神岩手屋」があり、こちらの方がやや広いのだが、今日行ったのは本店の方。以前はよく来たのだが、今日は三年ぶりくらいだろうか。提灯に「奥様公認酒蔵」とあるのが目印だ。
七席ほどのL字型カウンターと、小さなテーブルがいくつかあるだけの小さな店だが、落ち着いて飲める雰囲気がすばらしい。老舗で大きな改装もしていないようだが、なぜか明るい印象があるのは、白木の壁のせいだろうか。酒は岩手、陸前高田の酔仙で、本醸造から大吟醸、生酒、そして米焼酎までが揃う。肴はほや、ばくらい、まつもなど三陸の珍味が売り物だが、他のラインナップも煮奴、こごみごま和え、蛍いかと浅葱の酢味噌、いわしの酢締め、氷頭膾など、何とも渋い。値段も、三〇〇円台から四〇〇円台が中心で、安い。
以前は兄弟二人店主だったはずだが、今日は一人だけ。代わりにいた若者は息子さんか。柔和な中にも芯の通った印象の店主が、店の存在感を醸しだし、客もその空気になじんでいる。この店の米焼酎は、「古古」という度数四〇度の古酒で、岩手でもなかなか手に入らない。二合瓶はとても飲みきれないので、店主に一杯だけ飲んで残りを持って帰っていいかと聞くと、快くOKしてくれた。
近くに用があったら、あるいは湯島天神参りかアメ横で買物か、何か用を作って行くといい。(2010.2.24)

文京区湯島3-38-8
16:00〜22:00 日祝休