橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

アメ横「大統領」

classingkenji2010-03-09

今日は久しぶりに何も予定がない日だったので、思い立って上野の国立博物館へ、長谷川等伯展を見に行く。能登にいた頃の作品から晩年の傑作まで、これ以上は不可能というくらい作品を集めた企画。作風の多彩さにも驚く。松林図屏風の前は、明らかに空気が違う。
見たあとは、上野公園を散策してから、アメ横へ。「大統領」「文楽」と老舗もつ焼き屋が向かい合う一角だ。久しぶりに「大統領」の本店に入ってみる。暖かい日でもあり、通路側のオープンエアの席で飲みたかったのだが、カウンターの屋の席に通された。もつ焼きの味は、まあ水準を行く。
右隣の初老の男が、ちょっと挙動不審だ。何かと私のほうをじろじろ見る。話しかけられたくないので、テレビの画面に見入っていた。男の右隣の席に、サラリーマン風の中年が座る。すぐに男が話しかける。そのカバン何が入っているんだ、どこ行ってきたんだ、仕事何やってるんだ。嫌がっているのもおかまいなく、ひっきりなしに話しかける。店長は気付いているはずだが、見て見ぬふり。かなり酔っていると思われるのに、おかわりの酒を注文されるままに注ぐ。いっぱいに注がれたコップを男が持ち上げると、酒があふれてカウンターを汚した。おい、何か話しようじゃないか、おい。サラリーマンは、そそくさと注文の品を食べて出て行った。話し相手がいなくなった男は、しばらく私の横顔を見たあと、あきらめたらしくさっき注文したばかりの酒を半分以上残して出て行く。カウンターはこぼれた酒で汚れたままだが、店員は皿とコップは下げたものの、拭きもしないでそのまま放置している。さて、次の店に行くか。(2010.2.24)

台東区上野6−10−14 
10:00〜0:00 無休