橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

稚内「咲田」

classingkenji2009-09-02

この日は、稚内で一泊。市内を歩き回ってみたが、いかにも観光客向けの店か、あまり料理に期待出来なさそうな地元常連向けの店が多い。いくつか候補はあったが、いちばん心ひかれたのが、この店。ここに入ったのは、大正解だった。
まずは、サッポロクラシック。冷えたジョッキに注がれて、三九〇円は安い。ちなみに瓶ビールは五九〇円、サワー類は三一五円。日本酒はなぜか福島の奥の松がメインで、四〇〇円から。もちろん北海道の酒もあり、わたしは男山の稚内限定冷酒「最北航路」をいただく。
刺身がいろいろあるのは当然で、鮭、帆立、マグロ、イカ、甘海老の盛り込まれた盛り合わせ一〇五〇円は、お値打ち。地元食材を生かした一品料理が充実していて、毛ガニクリームコロッケ六三〇円、カスベのぬた三一五円、毛ガニ天ぷら五二五円、稚内産なまこ酢四八五円、たこわさび三一五円など。いずれも安い。カスベ、なまこ、たこわさびをいただいたが、いずれも美味しかった。とくにカスベは、溶けるように柔らかく、この魚の食べ方として最高のもののひとつかもしれない。ホッケのチャンチャン焼き(六三〇円)は、地元料理の定番だが、東京のホッケとはまったく別物。定食がいろいろあり、シメに頼んだ宗谷黒牛すき焼き鍋定食(一四七〇円)は、最初にバターを融かす北海道風。和牛として、いい線を行っている。その他、ズワイガニの姿煮が一五七五円、刺身が八四〇円など、食べたいものがいろいろあった。
聞くと、開店したのは昨年で、それまではそば屋だったとのこと。人当たりが良く、料理のことをよく知っている若主人がフロアを仕切り、おばちゃん二人がこまめに動く。炉を囲むカウンターに、テーブルがいくつか、そして座敷が二つ。客は多いとはいえなかったが、ひとつの座敷は、家族・親戚の集まりかと思われるグループ客で満員だった。地元高齢者の集まりにも、使われているらしい。地域社会に根を下ろしつつあるようだが、観光客にもお勧めの店。稚内駅のすぐ近く、線路の終わったあたりのすぐ先にある。(2009.9.22)

稚内市中央2丁目11-10