橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

江古田「乃がた」

classingkenji2009-06-24

ここは、江古田でも老舗に属する居酒屋。何年かぶりで、来てみた。ご覧の通り、どこにでもありそうな店構えである。同名の店が西武新宿線の野方にあるが、関係はあるのかないのか。
中に入っても、ごく普通の居酒屋だ。カウンターが数席と、数卓のテーブル席と小上がり。酒は、ビール、日本酒(八重垣というところが、ちょっと珍しい)、焼酎、酎ハイなど。以前はなかったはずだが、ホッピーも扱うようになったようだ。料理は、焼鳥、刺身、酢の物、煮物など、これも普通の居酒屋メニュー。ここまで普通づくしだと、かえって貴重かもしれない。ちなみに、味も普通である。
街には、古層と表層がある。居酒屋も同じだ。表層部分にはチェーン店やおしゃれ系の店があって、学生や若者がやってくる。しかし古層部分には昔ながらの店があって、地元に長く生活する人々がやってくる。ご隠居さんが、一人で新聞を見ながら冷酒を飲む。勤め帰りの中高年が、テレビのニュースについてあれこれいいながら、ビールを飲む。商店街の社長と女将さんが、キープした焼酎ボトルを脇に置いて、世間話をしている。ひとつの街のすぐ近くに、時間の流れの違う層が共存している。街のこんな時空構造を知ることのできるのも、居酒屋めぐりの収穫のひとつである。(2009.6.16)