橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

渋谷「富士屋本店」

classingkenji2009-02-20

一九四五年の映画「東京五人男」に出てくる「桜丘国民酒場」は、実は「富士屋本店」ではないのか……という疑問を解明すべく、今日は渋谷へ向かう。あらかじめテレビの画面で、国民酒場周辺の地形を頭に入れていったのだが、無駄だった。なにしろ渋谷である。細い路地の両側にかなり高いビルが建ち並び、地形など分かったものではない。
しかし階段を下りて中に入り、カウンターに立って、四五〇円のビールを飲みながら二〇〇円のハムカツを食べていると、何だか国民酒場にいるような気分になってくる。正確な意味での前身かどうかはともかく、この店が、酒が乏しかった時代、金のない男達が酒を求めて集まった時代の酒場の雰囲気を、受け継いでいることは間違いがない。雰囲気、味、値段、どれをとっても、都内屈指の立ち飲みの名店である。(2009.2.16)

渋谷区桜丘町2-3
17:00〜21:00 日祝・第4土休