橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「東京五人男」再論

classingkenji2009-02-06

先日、「東京五人男」という映画を紹介したが、これについて二点ほど補足しておく。
先日あった「古典酒場」の座談会で、ワイタベさんから「あの国民酒場のモデルは、渋谷の立ち飲みの老舗・富士屋本店ではないか」という示唆をいただいた。たしかに、「富士屋本店」の住所は渋谷区桜丘である。立ち飲み屋としての営業は四〇年程度というが、酒屋としては一〇〇年以上の歴史があるらしいから、その可能性は高い。映画でも、一部は座席に座っているが、大部分の人は立って飲んでいて、今日の「富士屋本店」を思わせるものがある。
主演の古川ロッパは、戦前から戦後にかけて膨大な日記を残した。そこに、この映画についての記述がある。これによると、ロッパが映画制作の話を始めて聞いたのは一〇月二九日のことで、一一月一三日にシナリオを読み、二〇日にクランクイン。他の仕事もこなしながら、一二月一五日には撮影終了し、二四日に試写をみている。残念ながら、国民酒場の場面についての記述は見あたらなかった。