橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

珠洲市「龍泉」

classingkenji2009-01-05

寿司屋や料理旅館の類は別とすれば、奥能登には本格的な料理店は少ない。そもそも人口が少ないし、うまい魚介類は魚屋から買ってきていくらでも食べることができるから、なかなか商売として成り立たないのだろう。そんな環境にあって、素晴らしい日本料理を出す希有な店が、ここ。この日の献立は、付け出しの牛乳豆腐から始まって、お造り、かに味噌、焼物、酢の物、天ぷら、鍋物など多彩な内容。いずれも、地元の素材に手をかけて、素晴らしい料理に仕上げている。たとえばお造りには、彩りのいい野菜を一口大に切ったものが添えられている。食べられもしない大根ばかり盛りつけるのが普通だが、この工夫はうれしい。蟹味噌は甲羅のまま焼いて、うずらの卵が載せられている。酢の物は、蟹身とマグロ、野菜などを干し大根の薄切りで囲んで、タルトのように盛りつける。
能登は海の幸には事欠かないから、ちゃんと修行した料理人が手をかければ、良い料理ができるのは当たり前。そんな当たり前のぜいたくを、心ゆくまで味わえる。田舎のこと、土地も安いから、店はぜいたくにスペースをとっている。都会では不可能な名料理店といっていい。奥能登に行くことがあれば、ぜひどうぞ。(2008.12.21)

石川県珠洲市飯田町9-152-1
Tel 0768-82-6226
12:00〜15:00 17:00〜22:00 不定http://www.viplt.ne.jp/ryusen/index2.html