橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

銀座「樽平」

classingkenji2008-11-14

今日の二軒目は、ここ。金春通りから細い路地に入ったところにある老舗居酒屋である。四方をビルに囲まれた一軒家。山形の銘醸・樽平酒造の直営店で、銀座六丁目で開店したのは何と一九三一年。現在の場所に移ったのは一九五二年だが、この建物も戦前のものだという。各地の郷土料理で酒を飲ませる店は居酒屋の一大ジャンルといっていいが、その草分けである。
待ち合わせたのは、光文社のミドル男性向けライフスタイル誌「BRIO」の編集者とライターさん。「旬の銀座」という記事の取材である。毎月、画廊やレストラン、バーなど、銀座のスポットを紹介する一ページの記事だが、今回は居酒屋とのこと。銀座らしい居酒屋をいくつか紹介し、その魅力や私が好きな理由などについてお話しする。できてきた原稿をみると、次のように要領よくまとめられていた。
「お洒落な店が現れては消えていく銀座にあって、名店と呼ばれる居酒屋には何十年も続いている店が多い。戦前から現代まで変らない銀座を代表しているのは、デパート、呉服屋、道具屋、料理屋などですが、居酒屋もそれに近いくらいの歴史で、銀座の柱の一つになっていると思います。」
一月号に掲載予定とのこと。写真は、名物料理のひとつ「鯉のうま煮」(一二〇〇円)。醤油と砂糖ベースで甘く仕上げたもので、鯉の独特の香りが口に広がって旨みと化していく。これまた濃い味の「樽平」と相性がいい。(2008.11.7)

中央区銀座8丁目7-9
17:00〜23:00 日祝休