橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

奥沢「さいとう」

classingkenji2008-10-17

DAITENさんに二軒目に案内されたのは、焼きとんの店「さいとう」。木造の黒光りした壁、紺色の暖簾に玄関障子、まんまるの赤ちょうちんという、なんとも風格のある外観で、「やきとり さいとう」という大きな白文字だけがやや現代的。中に入ると、少し暗めの照明で飴色の落ち着いた雰囲気。左側がカウンターで、右側にテーブル席。焼きとんは一本一〇〇円で、いずれも美味しく、しかも大きさの揃った肉が整然と串に刺された様が、また美しい。さすが、DAITENさんおすすめの店である。
この日は、緒方拳が亡くなったという話から、なぜか映画「砂の器」の話で盛り上がる。「砂の器」は私のいちばん好きな映画で、研究テーマにも関係があるから(なにしろ、社会移動の物語だから)、一度どこかで本格的に論じてみたいと思っている。舞台は蒲田で、東急線とも縁があるし、場末のバーが出てきたり、丹波哲郎森田健作が酒を飲むシーンもあって、居酒屋考現学的にもおもしろい。そもそも、松本清張には階級的ルサンチマンと社会移動の物語が多く、これが全作品に流れる通奏低音のようなところさえある。
DAITENさんのおかげで、東急線沿線の居酒屋世界に目を開かされた一夜。また、飲みましょう。(2008.10.11)

世田谷区奥沢4-27-12
17:00〜24:00 日休