橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「バンチキロウ」

classingkenji2008-10-09

仕事に手間取り、買い物も夕食の支度もできなかった。どこで夕食にしようかと考えたあげく、久しぶりにこの店へ行くことにした。経堂駅の改札を左に出ると、前方にすずらん通りの入り口がある。そこから歩いて一分とかからない。和菓子の「亀屋」の二階にあるのが、この店。入って奥にはカウンター席があり、左側にはテーブルがいくつか。宮古島の料理と泡盛を中心とするダイニング・バーで、民芸風というよりはエスニックなテイストの店作りである。
まずは、オリオン生ビール(六二〇円)でのどを潤し、「呑み助盛り」と称する珍味の盛り合わせ(島豆腐味噌漬け燻製、ミミガーのピーナッツバター和え、鯖の塩辛)をいただく。いっしょに注文したゴーヤチャンプル(八五〇円)が遅いので聞いてみると、ゴーヤは蒸してから使うので時間がかかったとのこと。これなら、ゴーヤのクセのある苦みが苦手な人でも美味しくいただけるだろう。泡盛は、カウンターに古酒の甕が並び、ほかにもボトルに入ったものがいろいろ。全部で二〇種類ほどあり、ほかにも麦焼酎芋焼酎など。ワインも数種類あり、グラスで注文できる。締めは、名物の宮古そば。野菜サラダにおにぎりなどというありきたりのものに頼らずに、栄養のバランスのとれた食事ができるのが、沖縄系居酒屋のいいところである。
六時半から八時頃までいたが、ほかの客はついに来なかった。居酒屋不況である。居酒屋・ビヤホールの売り上げは、一九九二年のピーク時に比べると三割近くも減っている。経堂近辺の店は、何とかもっているところが多いようだが、経営は楽ではないだろう。居酒屋には、集積効果がある。いい店がいくつもある街なら、飲みに出かけたいという欲求をかき立てられる。とかく私たちは、「名店」を誉め称えてしまいがちだが、それよりも大切にしなければならないのは「いい居酒屋の多い街」である。(2008.10.6)

東京都世田谷区宮坂3-12-2 2F
19:00〜 火休
http://www.dokazupin.com/ban_top.php