橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

ヴェローナ・円形劇場でのオペラ公演とビール売り

classingkenji2008-07-27

フィレンツェから鉄道でヴェローナへ。眼目は、古代の円形劇場で上演される「アイーダ」である。円形劇場の周囲には、レストランが並んでいるが、概して高い。料理一皿が最低10ユーロ、大概は15ユーロ以上という店が多く、入る気がしない。唯一、セルフサービスを売り物に客を集めるBREKという店があって、ここなら安心して食事ができる。値段は、キャンティのボトルが6.9ユーロ、小皿料理のローストビーフが3.4ユーロ、大きなボールに盛られたサラダが5.5ユーロなど。他の店は、着飾った客を中心に半分ほど席が埋まっただけだが、こちらは満員盛況。
円形劇場は、現代の野球場とほぼ同じ大きさ。観客は、2万人くらいいただろう。野球場でいえばバックネットから上の左右、4分の1ほどがステージで、残りが客席。フィールドの部分は特等席で、150-200ユーロくらい。私の席は、客席部分のまあまあの場所、野球でいえば一塁側の内野席で、73ユーロ。外野は自由席で、いちばん安いのは18ユーロくらいだったはず。9時15分開演予定だったが、ときおり雨が降る天候もあって、30分ほど遅れる。その間、外野席からウェーブが始まって、一時は大騒ぎ。かと思えば、写真のように、コーラやビール、ワインを売りに来る。周りを見ると、ワインボトル持参でチーズやサンドイッチを食べながら開演を待つ人も。オペラは、大衆娯楽なのである。日本にも、こういうオペラ文化があればと思う。フィールドの特等席にシートがかかっているのがみえるが、これはにわか雨が降り出したから。
肝心の演奏だが、会場が会場だけに、オーケストラは「多少乱れてもいいから力いっぱい音を出せ」と指示されていたのだろう。がなり立てる部分、揃わない部分が多かったが、よく頑張っていた。歌手たちはいずれも力演で、とくにアイーダ役は秀逸。広いステージを一杯に使った演出も見事。満足して見終わったときは、もう1時を回っていた。(2008.7.20)