橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

トスカーナ「ファンティ」

classingkenji2008-07-26

パリ生活にも慣れたころ、ちょっと足を伸ばしてイタリアへ。本拠地としたのはフィレンツェで、ここからトスカーナのワインツアーに出かける。最初に訪れたのは、テヌータ・サン・フィリッポ(TENUTA SAN FILIPPO)という作り手のFANTIというワイン。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの有数の作り手のひとつらしく、説明をしてくれた女性は、2006年には「ワイン・スペクテーター」誌で世界23位、ブルネッロでは1位にランクされたと、誇らしく語っていた。もっとも、トカスーナの作り手にまでこんな「パーカー一元主義」が浸透しているのかと、ちょっと意外だったが。技術革新に熱心で、ビール醸造でよく使われるシリンドロコニカル発酵タンク(上部は円筒形だが、下部は漏斗のようになっていて、下端から澱を排出できるもの)を導入し、しかも下の澱がたまる部分の少し上からタンクの上部へと発酵中のワインを循環させ、空気に触れさせているとのこと。テイスティングしたブルネッロは2006年に評価されたものとは違うビンテージだったが、ブラックベリー系の濃厚な果実味と、マッシュルームを思わせる複雑なアロマで、すばらしい味わい。これで30ユーロは安い。1ランク下のロッソ・ディ・ブルネッロも、かなり近い味で、14ユーロはお買い得かも。日本で売られているかどうかは不明である。(2007.7.18)