橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「千住の永見」

classingkenji2008-04-17

北千住駅の西口を出て左側、線路とほぼ並行して、両側に小さな店が建ち並ぶ飲食店街がある。名前をときわ通りといい、大衆酒場の宝庫のようなところだ。この入り口に位置するのが「千住の永見」。千社札の字体でくっきり書かれた看板に、粋でいなせな店主の似顔絵があるから、すぐわかる。このあたりでは、いちばん大きな店だ。一階はカウンターとテーブル席、二階はテーブル席と座敷で、満杯になれば一〇〇人近く入れるだろう。いつも賑わっているが、一人や二人で行って入れないことはない。料理は何でもあるし、酒も種類が多い。なにより、すぐにとけ込める居心地の良さがいい。下町風ハイボールもあるが、三五〇円とやや高め。ビールが大瓶五二〇円と安いので、こちらを飲むことが多い。ちなみに瓶ビールの銘柄は、サッポロラガーである(ただし、同じくサッポロの黒ラベルも出す)。
北千住など下町の居酒屋へ行くと、カジュアルな服装のご隠居さん風や労働者風の客が中心で、スーツにネクタイ姿のサラリーマンは少数派であることが多い。ところがこの店は、いつ行ってもサラリーマンが半分以上を占めている。値段が近所の店よりわずかに高いからかもしれないが、このサラリーマン客が、気取らない感じの人たちばかりである。グループは同じような年代どうしで和気あいあい、一人客はしみじみと飲んでいる。出世街道をひた走るエリートの来るような店ではないし、部下を引き連れてくるような店でもない。しがないふつうのサラリーマンのための下町居酒屋という、貴重な存在である。(2008.4.9)

足立区千住2-62 
15:30-10:30 日祝第3土休