橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

金沢「いたる」

classingkenji2008-01-11

金沢の中心部・香林坊の交差点から一本犀川寄りの、飲食店や用品店などの灯りが続く路地を兼六園方向に少し行くと、用水のほとりに出て、近くには老舗の寿司屋やおでん屋、ホテル、書店などが並んでいる。さらに少し進んだ道の左手にあるのが、この店。ニューウエイブの和風居酒屋として、味にうるさい金沢市民に絶大な人気を誇るが、私は今回が初めて。メニューには地物の魚や野菜を使った料理が並び、酒も天狗舞、加賀鳶、常きげんなど地酒を中心に一〇数種類(一合七〇〇−二〇〇〇円、半合グラスでも出す)を揃える。料理は、たとえばぶり刺身(一〇〇〇円)、ぶり大根(七〇〇円)、小坂れんこん天ぷら(七〇〇円)、五郎島金時芋天ぷら(七〇〇円)、香箱蟹の茹でたもの(一五〇〇円)。そして極めつきは香箱蟹を上海蟹のように生きたまま酒に漬け込んだ酔っぱらい蟹(二三〇〇円)など。茹でたものの方がすっきりした味わいで一般的だが、酔っぱらい蟹のとろりとこくのある味は、一度味わってみる価値がある。魚の種類は豊富で、鯖の刺身、のどぐろ、げんげなど金沢ならではのものが並ぶ。刺身には、ここでしか飲めない天狗舞の蔵出し生純米(一二〇mlで六〇〇円)がよく合う。時期が時期だけに、最後の忘年会という雰囲気のグループや、気の合う仲間二・三人で飲んでいる普段着の人が多い。金沢へ行った時の定番になりそうな店である。(2007.12.27)