橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

椎名町「正ちゃん」

classingkenji2007-12-03

椎名町駅北口ちかくにある、魚料理の店。もともとは魚屋らしく、外のショーケースに魚の煮物や焼き物を並べて売っている。入ると五席ほどの小さなカウンターがあり、奥にはテープル席。二階もあるらしく、宴会でもやっているのか、次々に人が入ってくる。ホワイトボードに今日のメニューが所狭しと書かれている。魚料理の種類は、非常に豊富。メゴチの天ぷらを注文すると、家庭で使うような小さな天ぷら鍋で器用に揚げはじめる。抹茶塩を添えて出てきたのは、皿に山盛りのきれいな天ぷら。あんな小さな鍋なのに、意外にもよく揚がっている。ブリの刺身を注文すると、分厚い切り身、しかもトロの脂ののった部分が八切れ。最高と言うほどではないとしても、十分美味しい。日本酒が一〇種類ほどあり、酒の好きな人も十分楽しめる。良くも悪くも地域住民密着型の店で、客はほとんど顔なじみらしく、店の人も近所の知り合いという態度で客に接している。客は客で、家庭の出来事やら老後の計画やら、私的な話題について店の人に話しかけ、まるでご近所のサロンのような趣。こんな店は、どこの町にもあるのだろうけれど、まあまあ美味しい魚と酒が楽しめるから、近くに住んでいて、話し相手が欲しい人なら、常連になる価値がある。(2007.11.27)